2016年3月30日水曜日

本嫌いが本を読んだら

僕は本が嫌いです。

「活字はしんどいし、目痛なるし、集中力がないからすぐ周りに気が散る」という言い分を盾に、本を勧められても断り続けてきました。
大学に入って、先生に本を薦められました。『震災脚本家 菱田シンヤ』という本です。


菱田シンヤ『震災脚本家 菱田シンヤ』エピック(20141210)

著者の菱田シンヤさんは神戸生まれの神戸育ち、実家の商売は洗濯屋さんだそうです。通常の町にある店ではなく、神戸港に入港する外国船舶のベッドシーツや枕カバーなどのリネンを扱うクリーニング業だったそうです。

昭和二十年代から三十年代頃、神戸港が隆盛の時期は豪華客船の入港や昼夜構わず入港する貨物船、神戸の水が綺麗で有名ということもあり、みんな洗濯は神戸で出す為にとんでもない稼ぎをしていたそうです。
しかし、高度経済成長が終わり、年々外洋船が減っていくなかで、港町・神戸は徐々に衰退していき、追い打ちをかけて起きたのが阪神淡路大震災。それを機に港に商いの船が入らなくなり、港町・神戸のアイデンティティが徐々に失われていったそうで、神戸の港っ子であった菱田さんが神戸港に寂しさを感じているのが著書の中でも伝わってきます。

そもそも本嫌いの僕が、この本を「少しでも読んでみよう」という気分になった理由は二つあります。一つ目は、先生に薦められたからです。友人ならまだしも、目上の方からのおすすめは断れません。
二つ目は、本の序盤で書かれていた言葉に惹かれたからです。それは、「芝居やるやつって誰でも最初の一回目は成功って思うもんなんです。どんな出来事でも、やってる側はやれたこと自体で大満足なんだからどんなもんでも、なんせ大成功」という言葉です。最初に客観的に分析出来る人なんてほぼいない、核心をついている言葉だと思いました。

菱田さんは、現在よしもとクリエイティブエージェンシーに所属されています。本を読み切り、菱田さんに会ってみたいと思った僕は、灘にある古本屋「ワールドエンズ・ガーデン」で行われたトークイベントに行ってきました。トークイベントの内容は、自分に合った本に出合うための「きっかけの本」についてです。

苦楽堂編『続 次の本へ』(2015121)

そのイベントは神戸の出版社・苦楽堂さん主催で、去年の12月に出版された『続・次の本へ』にちなんで開催されたものでした。会場のワールドエンズ・ガーデンさんは落ち着いた雰囲気で、時間を忘れさせるほっと一息つける、おしゃれな古本屋さんでした。

古本屋ワールドエンズ・ガーデンさんの外観


                お店の中の様子

会場に向かいながら思ったのは、電車の中から見ても分かる神戸の人の賑わい。北を見たら山、南を見たら海、神戸は自然と人の調和が醍醐味だと改めて思いました。なにより、電車内から見える神戸の海がとにかく綺麗、それを見て思うのは、「船乗って海の向こう行ってみてえなあ」ということです。

トークイベントでは、興味深いお話をたくさん聞くことが出来ました。菱田さん著書の『震災脚本家菱田シンヤ』も読んで、更にトークイベントでお話を聞いた僕の感想としては「考え方がすごい!」ということです。
震災直後で逆に冷静になってしまったり、シェイクスピアが知りたいが為に劇団に入ったり、「覚えるよりもまずやる」、という行動力がすごいと思いました。菱田さんのお話を聞いている中で感じたことは、話し方(声のトーン)、間の使い方(その秀逸さ)など……場数を踏み、自分を理解し、余裕を持っている。「かっこええ人やなあ」と思いました。
菱田さんには、すごい人からも、そうでもない人からも学ぶ姿勢があると感じました。「人のふり見て我がふり直せ」、この言葉通りに人生を歩んでおられるのが菱田さんのような方で、「学ぶ姿勢の大切さ」も直観的に感じることが出来ました。

というのも、僕は「お笑い芸人」に憧れを感じています。
お笑いの世界の中でも特に漫才に魅力を感じる僕は、幼少期からテレビや舞台で漫才をずっと見てきて、「自分は他よりお笑いの目は肥えているし、笑いのセンスでは負けへん」と自負していました。
僕が高校生の頃、「クラスでおもろい奴」が学園祭で漫才をしていました。僕は、「こいつらおもろないのう、パクりやんけ」と思っていました。口で言うだけなら誰でも出来る、僕は翌年、初めて漫才をしました。

生まれて初めて漫才の舞台に立ち、露呈したことは「場数の少なさからくるぎこちなさ」でした。
「パクリやけど、あいつら舞台で堂々と漫才しょったなあ」と勝手に負けた気になりました。笑いの量や技術云々ではなく、「堂々さ」で負けた気がしました。
僕が思う「堂々さ」は二種類あって、「根拠のない自信からくる堂々とした態度」と、「場数を踏んだ裏付けのもと、自信や余裕が生じることからとれる堂々とした態度」です。僕は、後者の「堂々さ」がほしい

そこから、火がついた僕らは学園祭が終わってもひたすらネタを作り、ネタ合わせをしました。そこから、アマチュアでも出場できる大会にも参加し、再び感じたのは「場数を踏むことの大切さ」でした。
 
 菱田さんのトークイベントのなかに、「場数を踏み続ける堂々さ」を感じました。舞台に立ち始めてから僕がずっと追い求めていた「場数を踏んだ上で身に付く堂々さ」でした。
 
 僕は今まで菱田さんがどんな場所で、どれくらいトークをしてきたか分かりません。しかし、菱田さんの背景に見えたものは、「膨大な量の場数からくる堂々さ」でした。場数を踏んできたからこそ、余裕を持ち、臨機応変に対応できる。どんなことにおいても、この「堂々さ」を持っている方は本当にかっこいい。

菱田さんは生まれ育った「神戸」にたいして、ある考えを持たれていました。それは、「神戸から東京に直通で行ける船があったらなあ」ということです。確かに、港町である神戸に、日本の首都への行き道がないのは、もったいない。それが出来れば、もっと神戸港は活性化し、「神戸」自体も賑わうと思いました。その意見を聞き、僕を含め、周りの皆さんの頷きと笑いが、菱田さんの考えを肯定しているようでした。

神戸港150周年を迎えますが、神戸港200周年には、東京直通が実現出来ていたらいいなと思います。

思い返してみると、「おもろい本」に出会ったから、菱田さんと出会えた。菱田さんと出会えたから、いろんなものを発見、吸収できた。この「おもろい本」との出会いは、僕にとって、「本嫌いは損している」という考えになれた本です。ただの「funny」ではなく、「interesting」であったからこそ、他の本も読んでみようと思える。くしくも、「きっかけの本」についてのイベントを前に、「きっかけの本」と出会えた僕は今こう言えます。

僕は本が嫌いでした。




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